広島地方裁判所 昭和44年(行ウ)12号 判決 1975年10月08日
広島市昭和町一一番一二号
原告
深山安子
右訴訟代理人弁護士
秋山光明
同
江島晴夫
同
岡田俊男
同
広兼文夫
同
福永綽夫
広島市大手町四丁目一番七号
被告
広島東税務署長
臼田三郎
被告指定代理人
坂本由喜子
同
松下能英
同
島津巖
同
岡田安央
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
被告が原告に対し昭和四三年三月四日付をもってなした、昭和三九年分所得税の更正処分につき更正所得金額金三〇、六四九、四三二円のうち金六一六、八六七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち右超過金額に対応する同加算税額の部分(広島国税局長の裁決による取消後のもの)を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
(被告)
主文と同旨
第二当事者の主張
(原告の請求原因)
一 原告は、昭和三九年分の所得金額及び所得税額をそれぞれ六〇三、一六七円及び一一、〇〇〇円と申告したところ、被告は、昭和四三年三月四日付で、所得金額三〇、六四九、四三二円、所得税額一五、八八八、四〇〇円、過少申告加算税額七九三、七〇〇円との内容の更正処分及び過少申告加算税賦課決定をして、その旨原告に通知した。
そこで原告は被告に対し、昭和四三年四月四日に異議申立をしたところ、これは同年六月二〇日に審査請求の扱いとなり、広島国税局長は昭和四四年二月七日付で所得金額を二二、七五六、九三二円、所得税額を一一、一三一、八〇〇円、過少申告加算税額を五五六、〇〇〇円とする一部取消の裁決をして、その旨原告に通知した。
二 しかしながら、被告の右更正処分及び賦課決定には、譲渡所得の認定につき、つぎのとおりの違法がある。
すなわち、原告は昭和三九年五月六日にその所有する事業用資産広島市塩屋町五三番二宅地一九六・三六平方メートル(五九・四〇坪、別紙図面斜線部分、以下本件宅地という。)同所五四番・五六番五宅地一六〇・三六平方メートル(四八・五一坪)を訴外鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設という。)に譲渡し、別途に事業用資産を購入した。したがって、右譲渡代金については、租税特別措置法三八条の六の適用がある。
しかるに、被告は、原告が譲渡した右各土地を事業の用に供していなかったものと認定して前記更正決定等を行なった。
しかし、右各土地は、いずれも原告が訴外広島ウエスタンオート株式会社(以下、広島ウエスタンという。)に賃貸していた広島市塩屋町五三番地の二、五四番地、五五番地上の建物の敷地の一部をなし、同会社において事業用に占有使用していた。そして、本件宅地はもともと独立では使用できない土地であって、一見して右賃貸建物の敷地の一部であることは明白であるのに、被告は、ことさらこれを独立させて事業用に供する土地でないと認定したものである。
そして、広島国税局長は、審査の結果、右のうち同町五四番・五六番五宅地一六〇・三六平方メートル(四八・五一坪)のみを事業用地と認めて被告の処分を一部取消す旨の裁決をしたが、右のとおり、本件宅地についても事業用地と認定されるべきものである。
三 ところで、原告には、前記一のとおり申告したほかに、広島市上東雲町三四〇番二及び同町五四〇番五を金五、二六五、〇〇〇円で胤森星人へ譲渡したことによる譲渡所得金一五、七〇〇円がある。
四 よって原告は、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
(請求原因に対する認否)
請求原因事実中、第一、三項の事実は認める
同第二項中、原告がその主張のとおり所有土地を鹿島建設に譲渡し、別途に事業用資産を購入したこと、被告が、右譲渡された土地が事業の用に供されていなかったと認定して本件更正決定等を行なったこと、右譲渡された土地がもと原告が広島ウエスタンに賃貸していた建物の敷地の一部なすものであること、広島国税局長が、審査の結果、広島市塩屋町五四番・五六番五宅地一六〇・三六平方メートル(四八・五一坪)を事業用資産と認めて被告の処分を一部取消す旨の裁決をしたことは認めるが、その余の事実は争う。本件宅地上にも原告が広島ウエスタンに賃貸中の建物が存在していたが、昭和三七年一月二一日地上建物が火災で焼失し、本件宅地の使用について両者間に紛争を生じたが、結局広島ウエスタンは占有権原が消滅したことを認め以後該土地の使用をしなかった。
(被告の主張)
一 被告が、本件宅地の利用状況について調査した結果、右宅地の譲渡日(昭和三九年五月六日)現在、その一部(約八・五〇平方メートル)に原告名義の建物が存在していただけでその余の部分は空地となっていた。そして、右建物は原告において使用しており、また、右空地部分を他人に賃貸していた事実はなかった。
したがって、本件宅地は、原告の自用地というべきものである。
本件宅地譲渡所得金額の計算関係は別表一のとおりであり、本件処分は、右譲渡所得金額に原告の申告にかかる不動産所得六〇三、一六七円を加えた金額の範囲内でなされているものであるから、適法である。
二 仮りに、本件宅地が広島ウエスタンに賃貸中の建物の敷地の一部で同会社に占有権原あるものであって、祖税特別措置法三八条の六の事業用資産の買換えの規定に該当するとしても、本件の場合、譲渡所得金額の計算関係は別紙二のとおりとなり、原告の真実の買換え取得資産の価格は五八、三七九、九一九円であるから、譲渡所得金額は二二、四二一、五八〇円となる。
したがって、本来、原告は同法三八条の七第二項の規定に従って修正申告をすべきであったが、それもなされていない。
そして、右金額は本件処分の譲渡所得金額二二、一五三、七六五円を上回ることとなり、本件処分は、その範囲内でなされたものであるから適法である。
(被告の主張に対する認否)
本件宅地について、火災後広島ウエスタンが占有権原を失ったことは否認する。同会社は本件宅地をその表側にあたる前記五四番、五五番地上の賃借建物とともにそれに付随して引続き占有使用していたから、これが事業用資産に該当することは明白である。その余の被告主張事実は争わない。
第三証拠関係
(原告)
甲第一ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第一五号証、第一六号証の一ないし七、第一七ないし第二〇号証を提出し、証人西田宣雄、同台屋敷寿良、同深山晃、同西寿満仁、同深山克己、同正木質の各証言を援用し、乙第五、八号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。
(被告)
乙第一号証の一ないし七、第二ないし第一七号証を提出し、証人戸津川竜三、同宇佐川暢久、同飯田信一、同谷田茂男の各証言を援用し、甲第一、二、三、五、六、一四、一五、一七、一八、一九、二〇号証の成立を認め、第一一、一二号証のうち官公署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立は不知と述べた
理由
一 請求原因事実中、第一、三項の事実及び第二項のうち、原告が、その主張のとおり所有土地を鹿島建設に譲渡し、別途に事業用資産を購入したこと、被告は、原告の右譲渡土地が事業の用に供されていなかったものと認定して本件更正決定等を行なったこと、右譲渡土地は、もと原告が広島ウエスタンに賃貸していた建物の敷地の一部をなすものであったこと、広島国税局長は、審査の結果、広島市塩屋町五四番・五六番五宅地一六〇・三六平方メートル(四八・五一坪)を事業用資産と認めて、被告の本件処分を一部取消す旨の裁決をしたことは当事者間に争いがなく、原告は、被告主張の本件宅地にかかる別表一、二の租税特別措置法の適用に関する計算関係を明らかに争わない。
二 そこで、本件宅地が事業用資産に該当するかどうかについて検討する。
成立に争いのない甲第三、五、一四、一五、一七、二〇号証乙第一号証の一ないし七、第二ないし第六号証、第九ないし第一七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、証人西田宣雄、同台屋敷寿良、同深山晃、同深山克己、同正木質、同戸津川竜三、同宇佐川暢久、同飯田信一、同谷田茂男の各証言(但し、証人西田宣雄、同台屋敷寿良、同深山晃、同深山克己の各証言中後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 広島ウエスタンは、主として自動二輪車の修理、販売等を業としていたものであるが、昭和二八年一二月一日に原告および訴外深山トヨコから広島市塩屋町五三番二(本件宅地)同五四番・五六番五同五五番の各土地上の三棟の建物を、賃料月金六〇、〇〇〇円、期間を同社が存続している限りの約で借受け、右五四番・五六番五、五五番地上の建物(以下、五五番宅地等上の建物という。)内において、自動二輪車、部品の陳列、販売及び自動二輪車の修理を行ない、また本件宅地上の建物を乗用自動車の修理、工具の保管等のために使用していたところ、昭和三七年一月二一日に従業員の失火によって、本件宅地上の建物を、主柱等を残してほぼ全焼させたこと。
2 原告は、右火災後間もなく、その一部に出入口を設けたものの、五四番・五六番五、五五番の各宅地と本件宅地との境等に板塀を設置し、原告の次男訴外深山克己、訴外株式会社西部オフイス(以下、西部オフイスという。)、当時原告を代理して本件宅地等を管理していた訴外深山晃は、連名のうえ昭和三七年二月三日に広島ウエスタンに対し、本件宅地部分の明渡、火災による損害の賠償、五五番宅地等上の建物を修理工場として使用することの禁止等を申入れ、さらに原告は、同月一六日に本件宅地につき、西部オフイスのために、同月九日契約を原因とする賃借権設定登記を経由したこと。
3 広島ウエスタンは、右火災後も、本件宅地上の建物は全焼しておらず右建物の借家権は依然として存続しているとの見解のもとに本件宅地の一部を使用していたところ、原告は、右損害賠償金として一、〇〇〇、〇〇〇円余りを要求し、また、右本件宅地の明渡等の申入れをするなどして、前年八月頃から続いていた賃料値上げの問題もあって、原告と広島ウエスタンとの間に紛糾が続いたこと。
4 ところで、昭和三七年一月頃の広島ウエスタンの経営状態は極めて悪く、本件宅地付近にあった同社所有土地を売却し、その資金で再建する以外に同社を存続させる方途がないため、広島ウエスタンの株式を五五パーセント余り保有し同社経営の実質的支配権を掌握していた訴外宇佐川襄、同暢久父子は、資格は有しないが不動産の売買につき経験があり、かねてから付き合いのあった訴外西田宣雄を昭和三七年二月に取締役として迎入れ、同訴外人に主として右所有土地の売却にあたらせることにしたこと、右西田は、その後同年七月に代表取締役に就任し、右西田と宇佐川父子の親族である訴外新見範三とがそれぞれ単独で広島ウエスタンを代表することとなったが、同社の経営は、前示のとおり宇佐川父子が実質的に支配しており、右西田、新見は、同社の経営に関し発生した事柄を遂一右宇佐川父子に報告していたこと。
5 その後昭和三七年一〇月頃、西部オフイス代表者訴外芝田寿名義で、前示板塀の出入口付近に、同一一月一日から許可なく出入を禁ずる旨の立札が掲げられるに至ったため、広島ウエスタンは、訴外早川弁護士から本件宅地上の建物は全焼しており、右建物に対する借家権は消滅しているとの助言を受けていたが、本件宅地は乗用自動車の修理をするために同社にとって重要なものであるため、同一〇月二九日、原告、深山トヨコ、西部オフイスを被申請人として、当庁に対し被申請人らの本件宅地への立入禁止を求める仮処分を申請し(当庁昭和三七年(ヨ)第三八八号事件)、当裁判所は、同三〇日にその旨の仮処分決定をなしたところ、原告、西部オフイスは、同一一月一七日、右仮処分決定に対する異議申立をしたこと、なお、本件宅地は、その西側が公道に接しており、前示五四番・五六番五五五番各宅地とは関係なく独立してこれを使用しえないわけではなく、また右仮処分申請事件には西田が広島ウエスタンの代表者として関与したこと。
6 その後、広島ウエスタンは、昭和三七年一二月頃に原告に対し火災見舞金として金一〇〇、〇〇〇円を支払い、また、前示仮処分決定に対する異議申立事件につき、六回の口頭弁論を重ねた後、原告らの異議が認容されるという見通しの下に、同社が本件宅地上の建物につき借家権を主張しないということで原告らと話合いが成立し、広島ウエスタンは翌三八年六月一九日に右仮処分申請を取下げたこと。
7 ところで、西田は、原告所有の広島市塩屋町五三番二宅地四三五・二四平方メートル(一三一、六六坪)の仮換地広島市C地区一六四ブロック二一ロツト上に家屋番号四三番の三木造瓦葺二階建二階事務所一棟床面積六四・四六平方メートル(一九・五坪)を所有していたが、昭和三六年に原告から無断占有を理由として建物収去土地明渡訴訟を提起されていた(当庁昭和三六年第四七二号事件)ところ、右事件につき、昭和三八年五月三〇日、西田は原告に対し右建物を金二〇〇、〇〇〇円で売渡す旨の和解が成立したこと。
8 原告は、昭和三八年九月頃、広島ウエスタンに対し、同社に賃貸中の建物の一部を訴外中越正男に売却したので、以後、右売却部分の賃料は同訴外人に支払うようにとの通知をしたこと、これによって中越に対し支払うこととなる賃料は極めて高額であり、当時広島ウエスタンが原告、深山トヨコから賃借中の建物の賃料値上げ問題が懸案となつていたため、右一部値上げによってこれに及ぼす影響を心配した広島ウエスタンは、五五番宅地等地上の建物につき、賃料確定の調停を申立てたこと、右調停手続において、原告らは、当初、土地の価格を坪当たり五〇〇、〇〇〇円と評価し、その一〇パーセントを賃料とするように要求し、広島ウエスタンは五パーセントを主張したが、結局、これを九パーセントとすることで合意が成立し、その結果、昭和三八年一〇月三日に調停が成立し、右建物の賃料は坪当たり年四五、〇〇〇円(月三、七五〇円)、総額一四〇、六二五円になったこと、右賃料は付近の貸ビル等の賃料と比較し、かなりの高額であるが、広島ウエスタンとしては従来の五五番宅地等上の建物の賃料が既に一か月一二万五〇〇〇円となっていたうえ原告らの執拗な増額請求を早期に解決するため、譲歩をよぎなくされたものであること、なお、広島ウエスタンはこの頃本件宅地をも従来どおり使用させて欲しい旨原告に要望したが、原告は借地権を生ずることを恐れて終始これを拒否していたため、右土地使用を断念し、右調停ではこれを固執せず、また、右調停申立は、新見が広島ウエスタンを代表して行ない、西田はこれにほとんど関与しなかったこと。
9 西田は、広島ウエスタン取締役に就任後、同社所有土地を有利な条件で売却するにはある程度まとまつた地積の土地とする必要があるところから、原告をはじめとする同社所有土地周辺の土地所有者と折衝を重ねていたところ、昭和三九年一月頃には、原告ら周辺土地所有者の協力を得て、一団のまとまった土地として鹿島建設へ売却することに話が進展し、同五月六日には本件宅地等の売買契約がなされたこと、右本件宅地が売却された頃、本件宅地上には原告所有建物家屋番号二三番三の一部約八・五〇平方メートルの部分が存在していたが、原告はこれを自ら使用し、その余の土地は空地となっていたこと、また、本件宅地に深山克己のために同年一月二四日賃借権設定登記が為されていたが、深山克己は原告に対し所定の賃料を支払ったことがないのはもちろんこれを使用し若しくは使用せんとしたこともなく、右はいわば実体の伴わないものであったこと。
以上のとおり認められる。甲第一六号証の一ないし一〇の存在、証人西寿満仁の証言はいまだ右認定を左右するにたらないし、右認定に反する証人西田宣雄、同台屋敷寿良、同深山晃、同深山克己の各証言の一部は、前掲各証拠及び右認定事実に照らして容易に採用できない。もっとも、甲四号証には原告主張のように昭和三八年五月二七日深山晃が前記西田に対し、広島ウエスタンの本件宅地に対する使用を従前どおり認めることを約した趣旨の記載がある。けれども、右記載は化粧品の広告用紙の裏面にメモ様になされているうえ、証人深山晃の証言によると右覚書は後日清書されたというのにその提出がないばかりでなく、右認定の経過にてらすと、右両者間に本件宅地の使用を認める合意が成立したとは考えられないから、右書面は右原告主張事実を認めるための資料とすることはできず、他に前記認定事実を覆えすに足る証拠はない。
右認定事実によれば、原告が本件譲渡当時、本件宅地を広島ウエスタンに対し車両修理等用地として賃貸し、若しくは賃貸建物の付随地として占有使用を認めていたとはいえないし、その他第三者に賃貸する等して本件宅地を事業の用に供していたと認めるに足りる証拠もないから、本件宅地の譲渡については、租税特別措置法三八条の六の適用を受けるに由ないものといわなければならない。
三 以上の次第で、原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 若林昌子 裁判官 上原茂行)
別紙一
譲渡所得金額の計算
<省略>
<省略>
(注)1 譲渡所得金額の合計額は12の(イ)と12の(ハ)との合計二二、三五一、一一〇円である。
2 譲渡物件のうち(ロ)の物件については租税特別措置法三八条の六の規定を、(ハ)の物件については同法三五条の規定をそれぞれ適用した。
別紙二
譲渡所得金額の計算
(租税特別措置法三八条の六の規定の適用があるとして計算した場合の計算)
<省略>
<省略>
(注) 譲渡所得金額の合計額は、12の(イ)と12の(ロ)との合計二二、四二一、五八〇円である。
図面
<省略>